漫画を「1巻=1円、2巻=2円」という破格で販売したところ、とんでもない広告効果がありました!


こんにちは。「メインは法務、その他諸々。」コルクの半井(@shionakarai)です。契約書を作ったり、経理をしたり、電子書籍を作ったり売ったり、代表とケンカしたり、最近は新規事業の仕込みをしたり作家さんのサイトのリニューアルのディレクションもしようとしている者です。

今日のお題はこちら。

そう、「バグじゃないのか」「安すぎないのか」「なんでこんな値段になっているんだ」とお騒がせした、三田紀房さんの『インベスターZ』の「右肩上がりセール」です。

すぐわかる「右肩上がりセール」
2017/4/24、『インベスターZ』1巻から15巻までが、複数の電子書店で1巻が1円、2巻が2円、3巻が3円・・・という値段に変わり、バグではないかと一部で疑われる。公式アカウント等により、2週間限定の正式なセールであることが発表されたあとも、その不思議な値段が話題に。特に巻数と値段が一緒になっているのかと思いきや、なぜか7巻が8円と数字がずれ始め、ニュースサイトの取材でもそれが突っ込まれることになった。

2週間実施して、実際のところどうだったの?

1巻から17巻までのDL数合計 約42万
1巻から15巻までの各巻のDL数 約2.5万

はい、こちらが2週間の結果です。
新しく25,000人の方に1巻から15巻を手に取っていただくことが出来ました。

ちなみに、15巻や16巻が発売から1ヶ月でDLされた数を、17巻は2週間で楽々と超えました。
値下げしていた15巻までを読んで続きを買ってくれたのでしょうか。1クリックで買えるセットになっている電子書店もあったので、一気に17巻まで買ってくれた方もいるかもしれないですね。

電子書店でのDL数だけでなく、こんな効果もありました。

「インベスターZ」という単語のTwitterのインプレッション
 最高181万

セール期間中と終了後数日間、
 kindleコミックの売れ筋ランキング20位までに全巻が入る

セール開始前にベンチマークするつもりはなかったKindleの売れ筋ランキング
1ページに表示される20冊のうち17冊を「インベスターZ」が占めている状態はインパクトがありました。
ランキングに入っているものは、安心感があって買いたくなる効果があるのではないかなと思うので、良いサイクルが生まれていたかもしれません。

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沢山の方が見る、そしてそれが購入というアクションに繋がりやすい、という点を考えると、Kindleのランキングページは「広告枠」に似た効果の非常に高い場所。この結果を見て、企画中には「値段を下げるのは10巻まででも良いのでは?」という意見があったのですが「いえ、15巻まで出します!」と押し切ってよかったー!と思いました。

こちらをマーケティングのプロでもあるCTOの萬田(@daisakku)に解説をしてもらったところ

GRAKeUCp萬田:CPA(Cost Per Action/Cost Per Acquisition)とは、コンバージョン(CV)1件あたりにかかった広告費用を示す値です。つまり一人の人に購入というアクションを起こしてもらうのにかかるコストです。
電子書籍の購入は、マンガアプリのユーザーを獲得する場合と似ていますね。アプリの平均的なCPAは200-300円と言われています。今回、新規購入人数が約2.5万人。300 x 25,000 = 750万円のマーケティング費用を捻出したという意味があるでしょう。定額課金サービスの会員獲得のCPAはもう少し高いので、そう考えるともっと価値があるかもしれないですね。

とのこと。ニュースサイトでの露出や、SNSで話題になったことを考えると、もう少し、1,000万円分くらいの価値があったのかもしれない・・・? 一緒に企画を進めてくれた小西(@konishi36)と顔を見合わせてしばらく沈黙してしまったくらい、びっくりの効果があったのでした。

なぜこんなセールが企画、実施できたのか

さて、ここで改めて作品の紹介と、このセールを実施出来たコルクのビジネスモデルのお話をさせてください。

「インベスターZ」は投資をテーマにした学園漫画。『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』の作者、三田紀房さんの作品です。

 

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主人公は中学生の財前くん。入学した中学校は、なんと投資部の部活動で学生が運用したお金で運営されているのでした。2013年に雑誌「モーニング」で開始した連載がつい先日最終回を迎えたところです。

雑誌掲載と紙の単行本の出版は講談社さんにお願いしていますが、電子書籍配信の権利はコルクが持ち、版元となっています。

出版契約に、一部の例外を除き、電子配信の権利は含めないことと(法務の立場から言うと、わかりやすくするためにざっくりした説明にしています)、社内に頼もしい写植チーム(@rockinsanmyaku@yukohime29)がいること、凸版印刷さんの「トッパン・エディトリアル・ナビ」でepub化出来ることで、実現しています。

電子書籍の版元になっていることには、いくつか理由があるのですが、そのひとつに、セールのタイミングと内容を作家さんとコルクで決めることが出来る、という点があります。

コルクの事業は、クリエイターのマネジネント、作品のマネジメント、ファンのマネジメント。
(参照:漫画や小説などの作品を多面的に展開する、コルクの「360°展開チーム」が生み出す書籍以外の仕事)

「インベスターZ」という作品をどうマネジメントするか、つまりどうやって沢山の方に読んでいただくか、そしてそれをどう売上につなげられるのかを日々考えています。

私は今回、法務と電子書籍を担当している立場から見える情報から、下記のような仮説を立ててみました。

1巻から15巻までの、発売直後の電子書籍のDL数推移

業務上おのずと毎月チェックすることになる売上とDL数。一覧にして眺めていると気になったのがこちら。

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最新刊発売後約1ヶ月のDL数の推移です。(横軸の数字は巻数です。発売は約3ヶ月に1冊のペース。)

発売後1ヶ月に絞ったので「新刊出たら買う」漫画になっていく様子が表れているのではないかなと思います。前の巻を買ってくれた人は続きを買ってくれていると仮定すると、

数字が伸びているところ=新刊は発売されたらすぐに買ってくれるようになった人が増えたタイミング

と考えられるでしょう。

4巻から9巻あたりが、伸び率が高いのに比べて、最近は総数は増えてはいますが、増加率は横ばいに近づいています。新しい読者があまり増やせていないのかもしれません。

確かに、人から漫画を勧められたときに、10巻以上あると読み始めるかどうか迷いませんか? 
最新話まで追いつくのに、時間もお金もかかると考えるとちょっと躊躇する。

巻数を重ねるごとに物語は進んでどんどん面白くなりますが、新規読者数は同じ曲線を描くわけではなさそうです。

割引セールの効果

このセールが初めての試みだったわけではなく、これまでにも
「新刊発売前に1巻を無料にする」
「夏休みや年末年始などに1巻から3巻までを30%オフにする」
など、タイミングや割引率を変えて、色々施策を行ってきました。

その結果として感じたことは、

「割引にしたり無料にした巻のDL数は増えるけれども、その続きの巻の購入にはほとんどつながらない」

ということ。

もちろん、全く効果がないとは言いません。割引セールをする方が、何もしない時よりもDLしてもらえる確率が高くなることは事実。
でも「無料本、割引本コーナー」はみんなが本を並べたい場所で、日々の入れ替わりも激しい激選区。そこでしっかり目立って、今までこの作品を知らなかった人に買ってもらうことは難しい。

「今から15巻以上の漫画を読む」というハードル、ちょっとやそっとの値引きでは続刊を買ってもらえない、というハードルをクリアしたい、というのが、今回の「右肩上がりセール」のスタートでした。

「読んでみよう」と思ってもらってすぐ買えるようにするには、SNSで話題にすること、つまり「バズらせる」必要があるだろうな、ということは想像がつきます。でもどうやったら話題になるんだろう。コルクだから出来ること。「インベスターZ」っぽいもの。なにかしら、なんだろう・・・。あっ

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インベスターP(詳しくは漫画を読んでね)のメンバーであるさくらちゃんとお母さんの毎朝の習慣、「右肩上がり」は、三田さんのオンラインコミュニティの名前にも使われるほど、「インベスターZ」の代表的なセリフのひとつ。

インベスターZ 10巻より

インベスターZ 10巻より

社員で写真を撮るときの決めポーズとしても定着しつつあります。(あるよね?)

せっかく自分たちでセールのタイミングや内容を決められるのだから、値段を「右肩上がり」に上がるように設定してみるのはどうかしら。「やりましょう」という一言を担当編集の柿内(@kakkyoshifumi)から引き出せば、はい、あとはやるだけ!

ここでなんとしても自慢しておきたいのですが、バナーはコルクで作っています。

電子書店さんが主催されるセールの場合、バナーは基本的には作っていただけるのですが、最近コルクでは、可能な限り作成してお渡ししています。今回は特に、右肩上がりのイラストを全売場で使ってもらいたかったので、社内のデザイナーに複数サイズ用意してもらいました。(gif動画にしてくれたのはスタッフのせり@seri258

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1円スタートはなぜ?

値段を右肩上がりにすることは決めました。

では、その値段はいくらにしましょう?

なぜ1円なのか、というご質問への「雰囲気で決めた」という答えは、あながち間違いではないのです。

「インベスターZ」が漫画を提供した、「バカが考えた株の漫画」、通称バカ株の中のフレーズをもじって

「わからない おれたちは雰囲気で〇〇をやっている」って、みなさんの周りでも言っている方いませんか? 

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【株の知識ゼロ】バカが考えた株の漫画 – 俺たち株の初心者!

それが言いたかったかったんです(すみません)。はい、ただウケたかったんです。

「とにかく可能な限りやりすぎたい」ということで1円にしました。無料にするよりも、変な値段になっている方がお祭り感が出て話題になるかなとも考えました。

どうして成功したのか?

冗談のように書いてしまいましたが、「雰囲気で〇〇をやっている」というフレーズが通じる土壌があったことは、このセールの成功に関係しているのではないかと、振り返りながら思います。

「インベスターZ」は連載開始当時から、日経電子版でフルカラー版を掲載したり、投資の啓蒙活動にキャラクター使ってもらったり、ビジネス本版を出したり、投資に関する書籍の帯や雑誌にイラストを掲載してもらったり、と、コルクだから出来るマネジメントをしてきました。先の「バカ株」もそのひとつです。

それは、「漫画は読んだことはないけれども「インベスターZ」という漫画の存在は知っている、キャラクターの絵を見たことがある」という人をじわじわと増やし、「よく目にするあの漫画、機会があったら読んでみよう」と思ってもらえていたのではないかと。コツコツとやってきた作品のマネジメントがあってこその、この成功かなと思っております。

 

とはいえ、改めて実感したのは、「インベスターZ」の作品の力。ただセールが話題になるだけではなく、読んだ方が「面白かった」「オススメ!」とブログやSNSで発信してくださっていることからも、そのことがわかると思います。

(あと、実は一番気にしていたのが、これまでに定価で買ってくださっていた読者の方々のことです。「自分は定価で買ったのにこんなに安くするなんて!」といったお怒りをいただくのではないかと心配していたのですが、むしろ「「インベスターZ」面白いからみんな読むといいよね!」というポジティブな受け止め方をしてくださった方が多くて、三田さんのファンの温かさと優しさも実感しました。。。)

 

今回、SNS等で話題になることがいかにマーケティング効果を持つか、実感出来る結果となりましたが、まだまだ満足はしていません。「右肩上がりセール」という言葉を浸透させたり、三田さんのサイトやラボ、Twitterのフォロワー数も増やしたいし、マーケティング目線を取り入れたコンテンツのマネジメントを、コルクとしてもっと積極的にやっていきたいなと思ったのでした。

 

 

ね、読みたくなってきたでしょう?

朗報です。

「インベスター Z」の18巻が6月23日発売です!

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さあみんなで「インベスターZ」を読んで、せーの、右肩上がり!