「会社に入れなかった僕はいま、会社でマンガを描いている」コルクのオフィスでペンを握る漫画家・羽賀翔一が仕事応援マンガを発売!!


後記

本記事からおよそ一年、2017年8月24日にも、新刊が発売になりました!

本人の想いを綴ったこちらの記事も、ぜひご覧ください。(編集部)
『君たちはどう生きるか』をマンガにした僕はどう生きるか①

はじめまして。マンガ家の羽賀翔一です(@hagashoichi

今年30歳、いまだ無名の僕ですが

いよいよ新刊の単行本を発売する事になり、

今日はこの「コルクのブログ」の場をお借りして、思いっきり

宣伝!

をですね、させていただきたく、普段は年老いたタニシのように身を隠しているのですが、こうしてノコノコと出て参りました。
えー、10月21日に発売になります『昼間のパパは光っている』は、プレジデントネクストで連載してきたもので……

『ちょっとまっったぁぁぁ!!』

ん?

ciotan01

あ、あなたは、この「コルクのブログ」を監修しているライターの塩谷舞さん@ciotan)!!

siotanisan1塩谷さん: 羽賀さん、いま普通に自分のマンガの宣伝を始めようとしてますね

haga1羽賀: え…はい…

siotanisan1 そして告知だけしてとっとと帰るつもりですね…?

haga1 えぇ、そのつもりです…

siotanisan1 ……

2 ブログなめんなあああああああああ!(心の声)

haga1 …だめですか?

siotanisan1 羽賀さん、もう少し読者に寄り添いましょ?まず、多くの人がマンガ家、羽賀翔一の事を知らない。その状況で、買って買ってというブログを書いても響かない。インターネットというのは”興味のないことに関してはビタ一文も金を払わない戦場”なんです。

haga2 …たしかに、そうですね

siotanisan1 ここはコルクのブログで、少なくともこのブログの読者は”コルクがどんなことをするのか”には興味は持ってくれています。羽賀さんは、コルクのオフィスに通って、編集者たちと席を隣り合わせにしながらマンガを描いているわけですよね?

haga2 はい、そうです

siotanisan1 漫画家が企業のオフィスに席を持つ、というのは珍しいことですよね。まずは、どうしてそんな立場にいるのか? そこから導入し、読者が振り向いてくれたところで、本題を伝えましょう。そもそも、マンガ家、羽賀翔一はどんな人物なのか?そこからはじめましょう。

haga2 …わかりました。うまく説明できるか分かりませんが、まずはそれで書いてみます

エントリーシートは一枚も書けなかったが、マンガを描いてみたら85ページ描けた

僕が生まれて初めてマンガを出版社に投稿したのは、大学4年生の秋でした。

もちろんまわりはリクルートスーツに身を包み、多くの人がそれぞれの進路を決めていっている状況でした。僕は国語の教職過程をとっていたので、私立高校の採用試験を1校受験しましたが、先生になる覚悟もなく、にもかかわらず一般企業の就活は一切していませんでした。

そもそもエントリーシートに何を書けばいいのか、1行も文章が思いつかなかったのです。(国語の先生になろうとしてるのに)

これはやばい

と思いました。

 

自分はいったい何がやりたいのか…

僕はふらふらと街を彷徨いながら考えました。

思えばこの大学生活、勇気を振り絞って、自分の気持ちと真剣に向き合って、ことをなしたことがあっただろうかと…

 

本当は憧れている夢がある。でも、失敗して傷つくのが恐くて、その気持ちを誤摩化したり、先送りにして、やり過ごしてきた。
本当はマンガを描きたい、マンガ家になりたい。

今までは、夢を行動に移す勇気も、ましてや自分の夢を近しい人に腹を割って話す勇気すら持てなかった。

でも、今からは
笑われても、後ろ指指されても、ちゃんとチャレンジしよう…!

 

「やるなら今しかねぇ?」
と長渕剛、西新宿の親父の唄を脳内再生しながら無印良品にたどり着いた僕は、無地のノート2冊とボールペンを買いました。
次の日、人の少ない午前中の図書館で、そのまっさらなノートを開きました。

どんなマンガになるかはわからない。
でも、たぶん自分には描ける!(はず)と自分に言い聞かせながら…

君はこれからつまらないマンガを死ぬほど描くことになる

haga1 塩谷さん、この絵を見てどう思います?

inchikikun
『インチキ君』より

siotanisan1 えっ…まぁ…達者とは言えないんじゃないでしょうか…

haga1 ですよね。でも恐ろしいことに、これを描いてるときの僕は、まぁまあイケてるんじゃないか、と思ってました。ただその勘違いのおかげで初の投稿マンガ『インチキ君』は、無事に85ページ最後まで描き上げることができたので、よかったです。

siotanisan1 結果は、どうだったんですか?

haga1 狙っていた大賞をとることはできなかったのですが、担当編集がつくことになりました。

siotanisan1 その編集者というのはもしや…

haga2 のちに講談社をやめてコルクを立ち上げることになる佐渡島さん(@sadycork)です。
ほとんどの編集者が、「この絵じゃプロにはなれない」と見向きもしない中、担当につきたいと手を挙げてくれました。

siotanisan1 何か光るものがあったんですね?

haga2 どうなんでしょう。ずいぶんあとに聞いたら、「絵はひどいし、ストーリーにも稚拙なところはあるけど、応募理由がよかった」と言っていました

siotanisan1 応募理由?

haga2 新人賞は応募理由を添えて出すんですが、自分がどんなマンガ家になりたいか、どんなマンガを描いていきたいかを書いてくる人ってあんまりいないらしいんです。それが僕の投稿作品にはあったからいいなと思ったと。

siotanisan1 企業のエントリーシートは書けなかったけど、そこは熱い思いがあったわけですね

haga2 そうですね。でも、もちろん佐渡島さんも僕を即戦力ルーキーとは全然思っていなくて、「就職して仕事しながらマンガ家目指しましょう」みたいな提案をされました。
ただ僕としては、初めて投稿したマンガで担当編集がついて舞い上がっていましたし、やるならいましかねぇ状態だったので、その提案は聞かなかったことにして(笑)卒業後も就職せず、実家のつくばから講談社に通ってマンガを見せに行きました。講談社の食堂で描いてていいよと言われたので、そこで描いて佐渡島さんの空き時間を見つけては、見せに行くのを繰り返していました。

2 え、講談社の食堂で描いてたんですか?

haga2 はい。講談社の食堂は、宇宙兄弟の小山宙哉さんジャイキリのツジトモさんも新人時代に構想を練るのに使っていたらしく、それは縁起のいい場所だと思って(笑)通っていました。

佐渡島さんは「マンガの経験の浅い羽賀君はこれからつまらないネーム(マンガの下書き)ばっかり山ほど描くことになるかもしれない。でもそれは才能がないってことじゃない。世に出すぎりぎりまで粘って、つまらないものを面白く修正できる人がマンガ家なんだ」と最初に会ったときに言っていて、そういうものなんだと思って、何度も打ち合わせをしては描き直していました。

そうやって、まず最初に作ったのが『ケシゴムライフ』というオムニバス形式の短編でした。

ケシゴムライフ

siotanisan1 なるほど?。でも「編集担当がつく」って、具体的になにをされるんでしょう?

今って、ネットで一人で漫画を描いてる人には担当編集もいないだろうし……「担当編集の仕事」を知らない漫画家さんも増えつつあると思うんですよね。

すべてのマンガはエッセイマンガである

haga2佐渡島さんと打ち合わせをしていて、コマ割りだったり細かい技術的な直しを言われる事もたくさんあったのですが、大抵うまく描けていないときは、「これ、君の感情はどこにこめられているの?」という指摘を受けていました。

siotanisan1 感情のありか、ですか。

haga2 はい。でも僕には最初その意味がよくわかりませんでした。
自分はマンガのキャラクターになりきったつもりで描いているのに、なんで感情がこもっていないように読まれてしまうんだろうと。

そもそもマンガの中の感情とは何なのか。
何度も見返すと没をもらうネームで描いていた「感情」は、例えば「プレゼントをもらった→嬉しい!」みたいな喉からいきなり肛門に出て行くような感情の描き方をしていることに気づきました。

siotanisan1 感情の、途中経過が描かれてないんですね。

haga2 はい。それがどれくらい嬉しくてどういう種類の嬉しさなのかという事は、その感情にいたるまでの経緯を覗くことよってしか、読者は想像できない。

だから、ロッククライミングの石を配置するように、読者がある感情にたどり着けるように場面をひとつひとつ丁寧に作っていかなければならないのだと。

そして自分の経験した感情であれば、その石をどう配置すればその感情に到るのかを再現しやすいのだ、とも教えられました。

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siotanisan1 それ、私たちライターにもめちゃくちゃ勉強になるアドバイスだな……。

haga1 佐渡島さんが講談社をやめたあとコルクという会社をつくって、今度は僕は講談社ではなくて毎日コルクに通うようになるわけですが、そこでは身の回りで起きたことを「今日のコルク」として描いていくように言われました。

siotanisan1 読んでましたよ、『今日のコルク』!

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haga2 日々自分が感じたものをマンガにするとどうなるか、を練習しました。
「zooo」というマンガは、母子家庭で育った自分と同じ境遇の少年を主人公にして描きました。
もらったアドバイスで印象に残っているのは、どんなジャンルのマンガも、根っこはエッセイマンガなんだという言葉です。

siotanisan1 つまり人の感情を描く、ということですか?

haga2 はい。エッセイマンガというのは、自分の半径10メートル以内で起きていることを描くマンガですが、例えば宇宙が舞台でも時代劇でも、その中で描かれる感情のもととなるのは、自分の身の回りで起きたり感じたりしていることなのだと。

siotanisan1 たしかに、感情のない時代劇だと、教科書読んでるみたいになっちゃいますもんね。

haga2 そう言われると、もしかしたらドラゴンボールも鳥山明のエッセイマンガなのかもしれないと僕は思いました。
元気玉という技は、精も根も尽きそうになっている鳥山明が読者からの無数の声に奮いたって原稿に向かっていく日常の出来事を、ファンタジーの世界で置き変えているだけなのかもしれないと。

siotanisan1 なるほど…。なんだかそんなアドバイスの話を聞いていると、今頃ヒットマンガが描けていてもいいような気がするんですが…

haga1 おふっ…ごふごふ(突然むせる)

siotanisan1 大丈夫ですか?

haga2 はい。大丈夫です。もちろんまだ売れてません、ですが、だからこそ話は最初に戻るわけです。

siotanisan1 あ、新刊の宣伝ですね

ぜひ『昼間のパパは光ってる』を読んでください!

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「会社に入ってまともに働くことがとてもじゃないができそうにない」と、かつて悟った僕から最も遠い場所にあるようなメジャービジネス誌『プレジデントネクスト』で連載をすることになったのは、いまから2年ほど前のことです。

まずは、コルクを介して「仕事もので描けないか」と話がありました。

siotanisan1会社で働いてないのに、仕事モノ。

haga2はい。だから正直、無理かもなと思いました。

でも、コルクで職場風景を見ているし、半径10メートルの自分の「もやもや」や「こうなりたい!」をかき集めて、
そしてたくさんの人に取材の協力をしてもらって、初めて一冊ぶんのストーリーマンガを描くことができました。

siotanisan1 どんなテーマなんですか?

haga2 舞台はダムの工事現場。巨大な建造物を造る過程の、ふだん日の目をみることのない物語です。

siotanisan1 ダム!ダムって、人里離れた山奥でかなり過酷な仕事現場ですよね…

haga2 そうですね。現場の方に、たくさんの取材をして、僕の感情と、ダムで働く人たちの感情を掛け合わせながら、僕は漫画にしました。
さきほど言ったエッセイマンガとしての濃度が一番濃く出た部分は、主人公の生沼が、うまく周りを巻き込めずに悶々として孤立していく場面です。

 

僕はツイッターやSNS運用が下手で、うまく人を巻き込んでいけなかったり、コルクのオフィスにいても、自分の殻にこもって、マンガのもとになるネタを引き出すことができなくて、悶々としていました。マンガ家になろうと決意する前の、ダメな自分が首をもたげてきて、せっかくこうしてマンガを描けているのに、がしがしと状況を切り開いていけない…。

そういうときに、佐渡島さんに言ってもらった言葉であったり、周りにいる人たちをみて感じたことを描いたのが、こんなシーンです。

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主人公の土木屋、生沼がどんな仕事をしていくのかは、ぜひここまでブログを読んで下さったあなたに、実際に単行本を手に取って頂いて知ってほしいです。
そして、もし良ければ、どんな感想でもいいので僕のTwitterにご意見いただけたら、嬉しいです!

いただいたご意見は元気玉のようにして、マンガでお返しするので!!

こちらからご購入いただけます!

siotanisan1 読んでみます!!(パラパラ…)あっ、本の最後にこんなあざといマークが!

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siotanisan1 アカウントはこちらですね(笑)。羽賀さん、色々教えてくれて、ありがとうございました!

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haga1 またお邪魔します。ありがとうございました!

後記

本記事からおよそ一年、2017年8月24日にも、新刊が発売になりました!

本人の想いを綴ったこちらの記事も、ぜひご覧ください。(編集部)
『君たちはどう生きるか』をマンガにした僕はどう生きるか①