『逃げるは恥だが役に立つ』装丁も手がけたデザイナー・小室杏子さんに、ブックデザインのお仕事の秘訣をたっぷり聞きました!


はじめまして!コルクでデザインや写植をしている、ロックです。
写植とは、漫画に活字で文字を入れていくお仕事のことです。

私は大学時代、コルクにインターン入社すると同時に写植からスタートし、デザインのお仕事を始めたのですが、今日はそんな私の大先輩を紹介します。

週に1度、コルクに通ってデザインをしてくださる出張デザイナーさん。その名は小室杏子さんです!!

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イラスト:羽賀翔一 (羽賀さんの公式サイトのバナーのデザインも小室さんなのです!)

日頃は装丁を主に作られているフリーランスのデザイナーさんで、コルクのデザイン案件を進めながら私の指導もしてくださっています。

小室さんがこれまでに手がけた作品を少し並べてみると、こんな感じ……!
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知っている作品も多いのではないでしょうか? そして、小室さん一人のお仕事とは思えないほど、表現の幅が広いことに驚かされます!

小説や漫画、雑誌の表紙など、どのようなプロセスで作り上げていくのでしょうか。小室さんに、私ロックがインタビューしてみました!

装丁の打ち合わせやデザイン案は
どうやって進んでいくの?

ロック:ブックデザインや装丁と言っても、小説の装丁コミックスの装丁ではやっぱり考え方や進め方って違うんですか? コミックスの装丁は漫画家さんの絵が素材と してあるけど、小説って読み手のイメージによって違いそう!アイデアの出し方や打ち合わせの進め方を教えていただきたいです。

小室さん: 基本的にはどれだけ作品の世界観を伝えられるか…ということは小説も漫画も同じで。それがまずは1番大切なことかなぁ、と。

ロック:ふむふむ。

小室さん:小説も漫画も基本として、作品を読み込んで世界観を理解し、「ここを象徴的に見せたら面白いだろうな〜」とか、キーになるものを探し出す……というのが最初の作業です。小説は物語のキーとなるものをグラフィック化する手もあるし、あえて雰囲気だけでもっていくこともありますね。

ロック:出版前の出来立ての作品を、読み込むわけですね…!!素敵な仕事だなぁ……。では、漫画の場合は?

小室さん:漫画は絵があるからはっきりしているけど、「どういう絵にするか」「どういうレイアウトにするか」によって、ものすごくいろんな可能性があるから、ある程度、作家さん、編集者さん、デザイナーで打ち合わせして意見を出し合ってまとめていきます。 そしてそのあとデザイナー側から、打ち合わせでまとめたものと、自分の良いと思うものとを何種類か提案する流れかな。

ロック:なるほどです。何種類か提案されているんですね。 私、小室さんがデザインされた二ノ宮和子さんの『のだめカンタービレ』の表紙がとても好きなのですが、『のだめカンタービレ』はどんな流れでデザイン案が決まったのですか??
漫画って1巻目だけのデザインではなく、そのあとの巻数も踏まえて考える必要があると思いますが……どういう風に案が固まっていくんでしょうか??

小室さん:
 そうそう、連載中の漫画作品は、何巻まで続くかわからないものも多いから1巻目でいろん な提案をして、フォーマットを決めるんですよ。

『のだめカンタービレ』はクラシックオーケストラの作品ですよね。
まず、オーケストラ=多数の楽器が出てくる。それだったら、全巻並べた時に、トレーディングカードみたいにズラーッといろんな楽器を見せられると楽しいかも! という話が出たんです。そこでまず、「カードみたいなデザイン」というテーマが決まり、主人公の「のだめ」がいろんな楽器を弾いている絵にしましょう…と打ち合わせで決まって。

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ロック:そうだったんですね! 彩りもキレイで並べてあると壮観ですよね! そうやってアイディアからアイディアが生まれ、思考が重なっていくということなんですね。

小川彌生さんの『君はペット』は通常版と特装版があり、特装版を小室さんが手がけたのですよね。どちらも印象が違い素敵ですが、こちらも作家さんとの打ち合わせを経て決まっていったのでしょうか?

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小室さん: 『君はペット』の時は作家の小川さんとの打ち合わせはなくって。 ただ、小川さんサイドから主人公モモに合わせて特色ピンクを使いたいと言うようなご要望があって。それで特装版だし、タイトルは箔を使って特別感を出したりしました。

ロック:とっても可愛いです!作家さんと打ち合わせがないということもあるんですね??

小室さん: 打ち合わせの仕方はケースバイケースですね。作家さんと全く会わずに進めることもあれば、ラフを作家さんが切ってこられて、打ち合わせすることも。逆に「デザイナーさんが提案してください」と言われる場合もありますね。 よしもとよしともさんの『青い車』 では「この絵を使ってください」と線画をいただいて、こちらで着彩してデザインを提案していきましたね。

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ロック:小室さんが着彩まで手がけられる場合もあるんですね!打ち合わせの仕方や進め方は、作家さんや作品によっていろいろなんですね。
他にも、小室さんは雑誌『KISS plus』の表紙も担当されていますよね。 月刊誌の表紙っていろんな作品のタイトルロゴもあって情報がたくさんあって、すごく難しそうですが……

小室さん:
そう、月刊誌の表紙はすごく難しい!!書店で「今月号、面白そう!」って一発で思わせないといけないし。 「今月はこの作品を推したい」とか「この作品が巻頭カラー」とかで自然とタイトルの大きさやバランスはある程度決まってくるんだけど……。それをどう見せるか、雑誌のカラーと推したい作品のカラーといろいろを織り交ぜながら、その雑誌、その号の魅力を最大限に表現するのが難しいんですよ。週刊誌などで数名デザイナーをローテーションで起用し、イメージが固定しないようにしている雑誌もありますね。

ロック:わ〜〜やっぱり、難しいんですね。確かにたくさんの伝える情報や色んな要素がある中で 「今月号面白そう!」って思わせなきゃいけないんですもんね。。
あと、月刊誌の表紙のデザイナーさんがその月によって違うというのも初めて知りました!

小室さん: 月刊誌、週刊誌のデザイナーとの契約や依頼のし方は各社さんそれぞれで違うみたい。以前はデザイン部署がある出版社さんもあったみたいだけど、今は外注がほとんどじゃないかなぁ。今、社内に装丁部門があって書籍デザインで有名なのは、新潮社さん、角川さんとかかな。

ロック:勉強になります!!

ブックデザインのプロセスは料理に似ている

ロック:デザイナーがブックデザインに挑戦するとき、何が1番重要だと思いますか??

小室さん:
フォントも色味もレイアウトも紙質も全部大事!優劣はつけられない!
ブックデザインってプロセスにしろなんにしろ、料理と似てるなって思うんですよ。 料理のメインのお肉やお魚が「メインの絵(写真)」。その周りの野菜・副菜が「デザイン素材やフォント」、刻んで焼いては「レイアウト」。鍋やフライパンや調理道具が「パソコンやアプリケーション」。お皿は「紙」で、どういう質感のお皿に並べたらより美味しそうに見えるかな? って。調味料は「インク」かなー?
そんな感じで全部が全て揃って「食べたい、美味しそう!」って見えるもの! 逆に、全体のバランスが整わないと美味しくないし、魅力的にならない。 下ごしらえが丁寧なお料理は美味しいのと同様、下ごしらえでしっかりと文字詰めされた文字は美しい。全てが全部綺麗に整っているから、美しいなって感じるんです。

ロック:なるほど〜〜お料理ですね! デザイン要素に優劣があると思った自分が恥ずかしいです!

フォントを選ぶ力を身につけるには?

ロック:もう1つ情けない質問なのですが、私フォント選びが弱くとても時間をかけてしま うのですが、小室さんはどのようにしてフォントを選んでいますか?? 装丁の際、タイトルロゴのデザインもあるんですよね?? フォント選定力の磨き方があったら 教えてください!

小室さん:
表紙は「この世界に入り込みたいな」と思わせる窓です。 「この物語の景色を見たい」って思ってもらう中で、より空気感、世界観を表すことがとても大切だから、世界観、テーマや時代に合ったフォントを選ぶようにしてます。
ロックちゃんも、使っているフォントが、どれくらいの時代に、どういう背景で作られて、どういうシーンで使われていたか……というのを調べてみて。 フォント選定力を磨くには、ただひたすら沢山見て触れてお勉強するのみ! かな。

ロック:お勉強!! ……頑張ります!!

アイディアが浮かばないとき、どうする?

ロック:小室さんは行き詰まったり、アイディアが浮かばないことありますか??
私は最近、何も浮かばない時はパソコンから一旦離れてデザイン本を見るようにし ているのですが、小室さんでもそういうことはありますか??

小室さん: なんにも浮かばないことはないけど、「こうじゃないんだよね〜」って行き詰まることはある! 作家さんと読者さんに気に入ってもらうのが1番だけど、自分の中から出てくるテザインとかみ合わなくて、う〜〜〜ん、ってなることはよくありますね。

ロック:そういう時はどうしていますか??

小室さん: 作業に入る前に本屋行って本をいっぱい見たり、食べ物のパッケージみたいな直接本と関係無いデザイン、レイアウトに関するものも、デザインに落とし込むのを頭に置きながら見て歩いたり。ピンタレストで装丁やデザイン、それ以外のデザインや植物や動物や建築など自分の好きな物を日々集めているからそれを見返してみたり。あとCDのジャケットを見たり。

ロック:そういえば、アイドルのCDのジャケットもされていましたね!

小室さん: そうそう。アイドルのジャケットをやる時はあえて、アイドルのジャケットを見すぎないようにしてます。すでに出てるものだから似たものに寄ってっちゃう可能性 があるので。

ロック:なるほど! 私はついつい、いつも同じテーマの資料を探しちゃいます!

小室さん: 昔、手塚治虫先生が、「漫画を描く為に漫画をだけ参考にしていてはダメ」というニュアンスのお話をしている記事をみたことがあって。
手塚治虫さんや、日本の漫画シーンを築き上げて来られた漫画家さんたちは、海外の映画や小説、そして学問の世界の事まで、漫画と違う表現手段のものを膨大に見て、吸収して、アイデアの源にして来られている。
そうすると表現が広がるし、深まってて。
それはデザイナーでも同じことで、デザインされたものだけ見ていると似通ってきてしまう。
だから、同じカテゴリーのものを参考にするのではなく、もっと違う魅力的な何かを見るようにしています。
例えば、さっきのアイドルのCDジャケットでいうと、ファッション誌を見るとかね。
ファッション誌は女の子をすごく魅力的に見せるから。
ただ、「男性の見る女性の魅力」と「同性同士での女性の魅力」って違うから、女性ファッション誌に偏ると男性ファンのニーズから離れたりしちゃう。だから、バランスの意識は大事だよ。
観察、分析して、いかにそれを落とし込めるか。どれだけ人をときめかせるか、という事が大事かなぁと。

ロック:なるほど! 観察力ですね。そして、ときめかせる。。。素敵です!

小室さんの「好き」パワーがコルクと出会ったきっかけ!

ロック:お聞きするのも恐縮なのですが、フリーランスのデザイナーだと、最初は営業活動などもされるのでしょうか?

小室さん: 営業活動というよりも、好きなものから繋がることが多いですかね。コルクと出会ったきっかけも、カフェのモーニング巡りなんですよ。

ロック:カフェのモーニング巡りから、コルクに??

小室さん:そう。いろんなカフェのモーニングを巡る中で出会った「カフェ マメヒコ」がとっても素敵で大好きになって。 そうしたらお店でコルク代表の佐渡島さんとマメヒコのオーナーの井川さんとの対談イベントがあって、お二人の事は知らなかったんだけど、面白そう!って思って行ったら、やっぱりとても面白くて。
そこで佐渡島さんと出会って、羽賀さんの『ケシゴムライフ』の単行本デザインのお話 をいただいたんですよ。

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ロック:そんな経緯が! 好きなモノがきっかけでつながったご縁。素敵ですね。

ロック:コルクの仕事で印象的だったものは、なんですか??

小室さん:渋谷にあるものづくりカフェ、Fabcafeとのコラボイベントで『宇宙兄弟』のグッズを作ったのが面白かったな〜。 コルクでは、作家さんに近い距離でいろんな面白い企画や横展開を考えられるのがいいですよね。 1つのプロジェクトをみんなで進められる達成感も、フリーランスでやっているとなかなか味わえないですしね。
fabcafeロック:小室さん、たくさんお話聞かせてくださって、ありがとうございました!! とっても面白かったです!

——小室さんは漫画が元々大好きで、装丁のお仕事がとても楽しいそうです。 やはり「好き」の気持ちって、とても大事だなと思いました。あと、デザインの磨き方や考え方をいろいろ聞かせていただいて、私も、たくさんいろんなものを意識して見て目を肥やさないとです!!
小室さんみたいに作品の世界観を伝えられて、愛を持ったデザイナーになれるように日々精進です!!!!